黒髪

 バスの終点は、ひなびた漁師町だった。
 生憎の天候で、雨がパラパラとしはじめた。それでもまだ傘をさすほどではないかと、かばんから傘を出すのはよした。暗雲の中を、小さな川沿いに、海を探して下流へと歩いた。
 さびれた、寂しい町だった。
 天候が、よけいそう感じさせたのかもしれない。歩く人もなく、車の気配さえなかった。
 歩く道はしばらくすると、大きく空が広がった。まだ視界には入らないが、潮の香りと、左手の川沿いに現れたセメントの背の高い堤防で、海の近いことが知れた。堤防は意外と高く、背伸びをせねばその向こうは見えそうにない。
 堤防の向こうは漁港らしい。
 右手はしばらく民家だったが、民家がとぎれた途端に木の垣根へと変わり、垣根の向こうに漁の網らしきものがぞんざいに放り出してあるのが垣間見えた。
 ようやく、堤防の切れる漁港の入り口まで差しかかった。胸を躍らせながら、その向こうに広がる景色をのぞく。
 途端に、激しい風が、彼女にどっとふきつけた。
 嵐が近いのだ。
 風が塊となってふきつける、向こうの空は、うんざりするほど灰色だった。しかもその灰色は、重くのしかかり、うっとおしいほど胸をしめつけた。雲のたれこめた海も、灰色を含んだ濃紺で、ずいぶん暗い。彼女は、目の前に広がる小さな漁港を取り囲む堤防を越え、浜へと至るゆるいセメントの坂を下っていった。港に停泊している船は一つもない。高く激しくうち寄せる波と、波音と、嵐が近いらしい強い風、それに、暗雲たれこめる空があるばかりだった。
 彼女はその、港の左手から海の中を沖へ向って、港を包みこむように伸びた突堤へと歩いていった。歩きながら振り返ってみると、港は、後方を高い山にとり囲まれるように位置している。右も、左も、すぐ近いところに山が迫っていた。後ろにある高い山は先ほどバスとともに超えてきた山で、頂上から緩やかに稜線が二股にわかれ、その先が突然絶壁をつくって、海に落ちている。港と町は、後ろの山から下りた稜線の二股の間に位置していた。山の頂は既に一面霧で白くおおわれている。
 突堤へと歩を進めると、波は遠目で見るよりずいぶん高いことがわかった。白くしぶきをあげて、わずかに突堤の上にまでうちつけている。
 それは、何とも不思議な光景だった。
 空も沖も、異様に暗い。なのに、昼だからある程度明るさもあって、沖でこげ茶色の肌を抜いた小島の色がはっきりと見て取れる。山にかかった霧も、波しぶきもくっきりと白く、海へと落ちた稜線の先端の木々の濃緑と、波うち際の濃いこげ茶色のゴツゴツとした岩肌も、霧の絶え間にはっきりと見て取れた。
 突堤の先端へと近づくにつれ、波しぶきは激しくなった。
 こんな中でも、あの景色は探せるだろうか。
 あの景色は、確認できるだろうか。
 確かに彼は、ここだと言った。この漁師町だと言った。地図に、しるしまでつけてくれたではないか。あの話と、地図とつきあわせていけば、ここになる。
 濃緑の海。海から抜き出た岩肌の、こげ茶色の絶壁、その絶壁にうちつける波しぶき、絶壁の上に稜線の緑の森。
 空のうっとおしさまで同じだ。
 カメラのアングルからすると、絶壁は真横からとられていた。突堤の、もう少し先なのだろうか。どうだろう――それにしても、凄い風だ、すごいうねりだ。
 まつげさえ風に倒されそうで、目を開けるのもきびしい。息さえとまりそうで、口の中に潮のべっとりとした辛さがまとわりついた。
 本当に、見えるのだろうか。本当に――。
 激しい波濤に怖気づきそうになりながら、彼女は歩みを進めた。暗い空、暗い海、ふきつける風――瞬間、そのうねりの中に、はっとするような、どこか不思議な、音も、時間もない絵が見えた。その、あまりの絵の魅力に、彼女は思わず足を止めた。
 吸い込まれそうに美しい、刹那――
 そのときだった。
 彼女の体を、波しぶきがなぐりつけて、よろよろとよろめきそうになった。足が崩れるかと思うのをなんとかこらえると突然、後ろから大きな男の手に腕をわしづかみにされた。反射的に手の主をふりかえると、途端に男に何か怒鳴られ、わじづかみにされた腕をぐいぐいと引っ張られた。男は彼女の腕をつかんだまま突堤を浜へと走りだしたので、彼女もそれにひきずられる格好で浜へと走った。
 この男は一体何なのだろう。
 なぜ突然現れたのだろう。
 男は後姿から、作業着であることが知れた。首筋の色が赤黒い。節くれだった手――漁師らしかった。男の走る勢いにつられて走るが、なぜか足ががくがくとして、もつれそうになってうまく走れない。息が苦しい。体が思うように動かなくて、なんだかとてもわずらわしい。歩けばいいのに、とまればいいのに――思っているうちに、男は突堤を終わり浜へとたどりつくと、立ち止まり、彼女へと振り返って一喝した。
「きみはあほか!」
男の形相と声と言葉に、彼女はぎょっとした。
「なんであんな先ぃに立っとったんや! 波に飲み込まれて死ぬつもりか!」
男は確かに怒っていた。中年の、もう白髪が混じっているような短髪で、潮焼けのためか色が赤黒く、漁師に見えた。死ぬ、という言葉が彼女の脳裏をゆるうくかすめると、はっとして沖へと振り返った。
 見ると、先ほど自分がいたあたりの突堤の先は、高く激しくうちつける波しぶきに包みこまれている。
「あんな堤防の真ん中におったらな、あんたたちまち海に飲み込まれるとこやったで。ほんま、地ぃの人間でさえ嵐の日は堤防に近づけへんのに、あんた何考えとんや。」
目の前で突然、深刻なドラマが喜劇に変わったかのようだった。美しい景色をもとめて、その景色に飲み込まれて、そして波にのまれて事故で命を落すなんてばかのようだ。後に残った人は、どう思うだろう。もしかしたら事故ととってもらえず、自殺と勘違いされたかもしれない。
 呆然と、彼女は沖をみつめた。荒れ狂う景色は、どこか粗雑な怖ささえあった。
「ずぶ濡れやないか。ちょっと組合いて乾かすか?」
背後から男の声が聞こえた。あまり回らない頭でその声をききながら、くみあいとはなんだろうと男へ振り返った。みると男は、港を取り囲む堤防の向こうの道へと歩きはじめている。彼女が動かないで男を見送っていると、男はふと立ち止まり、少し表情をやわらげて、「おいで」と声をかけた。その声にうながされて彼女は男の後をゆるゆると追った。
「あんたどこから来たんや? 見ん顔やな。」と男が話しかける。男の後に続いて歩いていくと、道を挟んで浜の向かいに二階建てのコンクリートの比較的大きな建物があった。入り口に「漁業組合」と書かれている。
 気がつくと、全身びしょぬれでわからなかったが、雨がしとしとと降っていた。体もずいぶん冷えて、旅行鞄も表は水がかかっている。建物の影に身を入れて、改めて寒さを感じた。
 この男が来なかったら、どうなっていただろう。誰にも気づかれず、海の藻屑へと消えていただろうか。
 自分は何を考えていたのだろう。
 自分はあのとき、何を考えていたのだろう。
 
 男は漁業組合の建物に彼女を導くと、明かりをつけ、入り口すぐのロビーらしきセメントぬりの広間にあったストーブに火をつけた。彼女に「ちょっと待っとりよ」と声をかけると、一度奥のどこかに消えた。再び現れたときは女ものらしい衣服とタオルを持って現れ、大きな声で話しかけた。
「うちのお母ちゃんの着替えやったらあるわ。しばらくはこれ着とくか?」
 どう見ても趣味からほど遠い服だったが、寒いよりはマシだった。男の差し出すのに会釈してそれを受けとると、男が、
「そこに入ったとこに畳の部屋があるから、そこで着替えておいで」
と言った。言われるままに男の差し出した奥へと向って歩くと、同じくセメントの廊下が続いている。ゆっくり歩みを進めると、奥に開け放たれた襖の部屋があって、そこに畳が六畳ひかれていた。休憩室らしかった。彼女は旅行鞄と衣服を入り口に置くと、靴を脱いでその部屋にあがり、濡れたストッキングにまとわりつく畳の感触を気にしながら、奥へと歩を進め、男の貸してくれたバスタオルに手を伸ばし、顔と頭をふきはじめた。
 一応着替えが終わると、荷物を持ってまたロビーへと引き返した。
 先ほどと違い、きちんと部屋に明かりがともっていて、いくらか暖房がきいたのか暖かさがひとしお体に押し寄せた。なんとありがたいのだろうと、突然感謝の気持ちが沸いた。
「お茶がええかいの?」
男はロビーの横にある事務所にいて、彼女の姿を見止めると、受付の小さな窓をあけ、窓ごしから声をかけた。
「今の時期は自動販売機にホットがないけん、ここでわかさんといかんのよ。お茶かインスタントコーヒーしかないけど、どっちがええか?」
そういわれて彼女は思わず、
「あ、いえ、もう十分です、おかまいなく」
と言葉を返した。
「いやいや、遠慮せんでええねんよ。冷えとるじゃろ? もう、じきにお湯も沸くよって、どっちがええか言うてよ。」
男は温和に見えて、どこか強引だと思った。でも、体はずいぶん冷えているし、ここは甘えた方がいい。ストーブでなく、本当は風呂に入りたいぐらいなのだ。
「あの、じゃあお茶でいいです。ありがとうございます。」
「お茶な、わかった。」
彼女はロビーの、ストーブの前のパイプ椅子に腰を下ろし、隣りにあったパイプ椅子にかばんを、また別のパイプ椅子を引き寄せて濡れた服をかけると、ストーブの前にさらした。すると、事務所から男が大きな声で、「あんたどこから来はったん?」とまた声をかけてきた。
「東京です。」
答えるときこえなかったのか、「へ?」と声が返ってきたので、もう一度大きな声で、「東京です。」と答えた。
 すると男が事務所のドアを開けて姿を現し、
「東京から来はったんかい? えらいまあ、遠いところからわざわざ。なんでこんなとこ来たん? いやあ、おっちゃんたまげてもたわ。」
土地の言葉かこの人の元々の性質か、どこか頓狂な笑いを誘う言いがあった。軽くふき出しそうになるのをこらえると、男もつられたように笑顔になって、
「いや、えらい遠いところからわざわざ。そんで、なんで来はったん。用事ないと来えへんやろ、こんなとこ。まさかわざわざ、死にに来たん違うわなあ。」
男の、「死にに来た」という言葉が、なんだか嫌な言葉に響いた。しかし男の様子は、どうも見ても本気で言ったようにも、彼女が本当に死にに来たと思って言っている様子でもなかった。
「景色を探しに来たんです。写真の。」
「写真? 写真てか。」
「ええ、ここでとられたと思うんですけど、その現物をどうしても見たくて来たんです。」
「ふ~ん。それ、今持っとる?」
言われて彼女ははじかれたように隣の椅子においたかばんへと手を伸ばした。かばんを手にとってその濡れ具合にぎょっとした。写真は無事だろうかと急いで探しはじめると、事務所の中から男が、
「ちょっと待っとってね。お湯わいたわ。今お茶入れたるさかいな。」
いいながら奥へと消えてしまった。
 鞄のちょうど中央に入れておいたので、写真そのものは入れておいた紙袋ごと無事だった。彼女はほっと息をつくと、紙袋をかばんから取り出してかばんを横の椅子に戻し、丁寧に紙袋から写真をひき出した。
 大判の風景写真が紙袋の中から顔を出す。少しどきどきしながら、事務所の中に消えた男が戻ってくるのを待った。
 ややあって、男が手に湯飲みを二つ乗せたお盆を持って現れた。男はそれを別のパイプ椅子の上におくと、湯飲みの一つをもって「熱いから気ぃつけてよ」と彼女に差し出した。
 いったん写真を膝の上において、男から茶碗を受け取ろうとした。触った途端に熱いと手を引っ込めた。「ほら、熱いから気つけてって」と男が繰り返す。そろそろと受け取った手から、急激に熱が押し寄せ、自分の手もずいぶん冷えているのだということに気がついた。
 何度かお茶をふいて冷ましてから、ゆっくりと口の中にすすりこむと、咽喉から食道へと激しい熱が伝わり落ちた。横にあるパイプ椅子に一度湯飲みを置くと、温まった両手で両の頬を包んだ。手のぬくもりをじわじわと頬にしみこませると、もう一度湯飲みを手にとった。
「それかい。どれ、見せてみよ。」
男が彼女の膝の上にある、写真がのぞいた茶封筒をめざとくみつけると、彼女に手を差し出した。
 湯飲みを片手に持ち替えて、彼女は膝の上の封筒を男に渡した。男は受け取り、何気なく中の写真を取り出すと、見てすぐに、
「これは展望台からの景色やないか。」
と言葉を発した。
「へええ、上手に撮っとるなあ。あ、こっちは別の角度から撮ったやつやな。クロカミの方むいとるでえ。」
「クロカミ?」
「そうそう、クロカミいうところがあるんよ。はああ、展望台からぐるっとまわしてとっとるんやな。」
「展望台ってどこにあるんですか?」
「展望台か? ほうやなあ、ここから海沿いにずっと西に歩いていったらあるとこよ。車でいたら、ほんの二、三分のとこやけんどもな。」
「車で二、三分ということは、歩いたら」
「うん、まあ、十分はかかるかいな。ずうっと坂が続くさかい、十分でも結構きついかしれんな。」
「でも、行ったら見れるんですか?」
「いや、そりゃ展望台とその回りは見れるかもしれんけど、今日の荒れ具合やったら、ほとんど霧と雨でこんなふうには見えんでえ。」
男の言葉に、体がぬくもってきたのも手伝って、激しい脱力感に襲われた。あんなに必死になって、あんなに期待してきたのに、見えないとはどういうことだろう。
「あの、今日は無理なら、明日は見えるでしょうか。」
「さあ、雨が過ぎたら見えるやろね。明日って、どこか泊まりはんの?」
「え、ええっと、この近くに公共の宿舎があるって聞いたんですけど。」
「公共の宿舎? あるけんど、営業しとらんよ。」
「え?」
「あるけんど、やっとらんって。昔は夏場だけ営業しとってんけど、やる人がおらんようになってね、閉まっとおんのよ。」
「閉まっとおんのって…。」
「客もこんしね、採算があわんいうて、誰もやろういう人がいてへんのよ。」
「え、じゃあ、他に泊まるところはないんですか?」
「いや、あんたなんで来はったん?」
「バスです。」
「バスてか?」
男の言葉に彼女は大きくうなずいた。
 次の言葉を待つ彼女に、男は困った顔をして「ううん…」とうなった。
「バスはもう夜しか来んでえ。」
ショックで軽い貧血を起こしそうになった。それから、あわてて腕時計を見ると、
「夜って、まだ二時過ぎじゃないですか。」
「そんでもなんでも来んもんは来んのよ。なんやったら、ここで夜まで時間つぶすかい。」
「いえ、そんな、他に交通手段はないんですか?」
「交通手段て、じゃ、タクシーでも呼んであげよか?」
「タクシーならあるんですか?」
「来るまで三十分ぐらいかかるけどね。」
どうも頭の働きがよくない。男の言っている言葉の理解が遅い。体が冷えているせいだろうか、疲れているせいだろうかとぼんやり考えながら、
「泊まるところはどの辺ですか?」
「そうさなあ、ここから二十分ぐらい車で走ったらビジネスホテルがあるわ。」
その言葉をきいて幾分ホッとした。
「あの、じゃあタクシーを呼んでいただけますか。また出直します。」
「なんやったらおっちゃん送ってったろか?」
男の言葉に思わずひかれ、しばらく躊躇したが、
「いえ、見ず知らずの方にそこまでしていただくわけには。」
と辞退した。
 男は愉快そうに笑うと、「じゃあちょっと待ちよりよ。今電話かけたるけん。」と言って事務所の奥へと入って行った。
 事務所に消えていく男をみながら、窓の外の景色が目に映った。
 なんと暗いのだろう。
 昼間なのに、日暮れ前のようだ。台風の最中は、たいがいこんなふうになる。しかし台風は来ていない。嵐なのだ。風も強くふきつけ、さっきの小雨とは違い外に立っているだけでびしょぬれになりそうな、ひどい景色だった。
 体が潮に濡れたせいか、極度に冷えたせいか、ずいぶんけだるい。早くホテルで湯をわかし、温かい風呂に入って眠りたいと思った。目頭を両手で押さえると、きゅっと気持ちが良かった。先ほどの湯飲みを手にもつと、ちょうどいい具合に冷えていて、彼女は首筋に直接それを当て、ぬくもりを体にじかに感じた。
 目を閉じてそのむくもりを感じていると、事務所の奥から男が出てきて、弱ったような顔で、
「あのな、申し訳ないんやけんど、あんたバスで来るとき峠があったやろ? あそこで霧がひどなってるからこれそうにないやろて話なんやけんどな。」
「え?」
彼女は立ち上がった。
「来れそうにない?」
「ふん、無理らしいわ。あそこは雨になるといっつも霧が出て濃いいんよ。一歩間違えたら崖をまっ逆さまやけんなあ、霧の日は用心して来てくれへん。堪忍したってよ。」
「堪忍したってって、じゃああたしはどうすればいいんですか?」
「そうやなあ、おっちゃんも送っていったられへんし、夜まで待ってもバスが通れるかどうかわからへんなあ。なんやったら、小学校の横に公民館あるし、そこで寝たらどうね。お風呂もついとるし、布団もあるし。ちょっと一人では寂しいか知らんけど、裏に小学校の先生らの宿舎があるから、何やあったらそこに頼んだらええし。」
「え、え、食事はあるんですか?」
「食事はないけんど、お湯はわかせるし、キッチンも一揃えそろっとるけん、贅沢さえ言わなんだら、そこにある酒屋でカップラーメンでも買うていたらええわ。おっちゃんもおにぎりぐらいやったらご馳走したるし。」
男はどこか、申し訳なさそうに言葉を続けた。彼女は、こんな田舎もあるのだと、改めて知ったと言った思いだった。日にバスが数えるほどしかない。霧がかかると山が越えられない。宿泊地は車で二十分先。
 都会のありがたさが身にしみる。それでも、こんなところにも人が住んでいるのだと改めて思った。
 申し訳なさそうな男の顔をみながら、「よろしくお願いします」と頭を下げた。食事をして町を出たはずなのに、もう腹が減っていた。お茶、ラーメン、おにぎり、お風呂――そんなものが、彼女の中でめぐっていた。自分の体にしみついたにおいか、着ているものについたのか、部屋にしみついているのか、それとも外から香ってくるのか、潮の香がたまらないほど鼻についた。
 不思議な高揚が、彼女の中にたちこめた。
 
 公民館は港から歩いて七、八分、小さい集落の中を川沿いに遡った小学校の隣にあった。施設は比較的大きくて新しく、二階建てで、二階が宿泊施設となっているらしかった。泊まれば使用料は三千円ということだった。
 到着するとまず風呂を使った。たっぷりと張ったお湯は水質がよいのか快適で、冷えた体がしんからあたたまった。
 風呂からあがると二階にあるという布団とシーツを求めてあがっていった。さっきここまで案内してくれた漁師が訪ねてきた時のために、一階に布団類をもっておろし、集会に使うというフローリングの広間の隅にそれをひき、なだれこむように横になった。
 ものも覚えず眠った。
 目が覚めたのは、広間に対面したキッチンの横にある裏の扉が開く音がして、キッチンに明かりがともったからだった。驚いて起き上がると、キッチンに例の漁師が立っていて、何かしている風なのが目に入った。それから、カーテンのない部屋の周囲がもうすっかり暗くなっているということに気がついた。
「ああ、起こしてもたみたいで悪かったの。約束のおにぎりと、太刀魚焼いて持てきたんよ。お腹減っとるじゃろ?」
彼女は慌てて布団を美しく整えて、立ち上がりながら「すいません、お世話かけます。」と言い、キッチンへと歩いていった。
 男はキッチンの流しの横に持ってきたものを並べると、やかんをレンジにかけて火をつけた。
 改めてキッチンの中を見ると、一つ家庭のように一そろえにそろっている。冷蔵庫があって、その表に張り紙があり、ジュースやビールの値段が表になって書かれていた。開けると中は缶でいっぱいで、中を見回してドアを閉めた。
「なんでも揃うとるけん、好きに使ってええわ。ただ、洗うのだけはきっちりしとってよ。」
男がレンジの前に立って、彼女の方に向って言った。
「ありがとうございます。」
言葉を返すと、
「ところであんた、何しとおる人よ。」
と男が尋ねた。「何しとおる」の意味がとれなくて、「はい?」と返事をすると、
「仕事は何かて。いやな、何であんな写真もっとるんじゃろ思たら、やっぱ仕事かいのお思て。」
ああ、と彼女は声を上げずに得心した。
「いえ、あの、写真は仕事とは関係ないんです。あれは、知り合いの撮ったもので…。仕事は、えーと、広告代理店に勤めてまして」
「広告代理店?」
「ええ、広告なんかを作る仕事なんですけど、そのコピーライター、の、卵です。」
「こぴいらいたあ? こぴいらいたあって、えらいハイカラな、横文字の名前やね。」
「え、ハイカラかどうかはちょっと。」
「こぴいらいたあって何するんね。何か書く人ね。」
「ええ、えっと、デザイナーさんたちと一緒に商品をどう売り出すか、とか、考える仕事で、その売り出し文句とか考えるのがコピーライターで」
「売り出し文句?」
「え、ええと、この前作ったのですと」
「ふんふん」
「宝石を売る会社の企画で、エンゲージリングの宣伝用なんですけど、『ぼくの世界の秘密をきみに』って」
「『ぼくの世界の秘密をきみに』? 婚約指輪のキャッチコピーみたいなもんかい。」
「そうです。そういうキャッチコピーとか、商品の説明とかを考える仕事です。」
「ふーん、何やたいそうな仕事やなあ。」
「はあ。」
なんだか自分の仕事を説明するだけで汗をかいた。漁師はわかっているのかいないのか、しばらく黙っていたが、
「標語とは違うのん?」
とたずねた。
「あ、に、似たようなものです。商品につける。」
「『飛び込むな 落ちたら痛い たいへんだ』」
「は?」
「おっちゃんがそこの崖の上に立てる標語の募集があったときに考えたやつよ。このご時世やしクロカミの上で自殺者が出たらいかんてな、作ったんよ。『飛び込むな 落ちたら痛い たいへんだ』。いや、通らんかってんけどね、何がいかんかったんかなあ。」
「はあ…」
体の奥からムズムズと笑いが込み上げそうになるのだが、相手が恩人でしかもまじめに話すので、笑ってもいけないかと必死で歯をくいしばってこらえた。
「おもろない?」
ふいに男がそう言ったのでドキッとした。
「そうか、おもろないか。読んだら受けると思て作ったのにな。いやあ、発表したときはみんなに馬鹿にされてな、いや、どうせ笑かしのために作ったんやけんど。」
「いえ、いえ、面白いです。面白いです。あははは。」
「そうか、よかった。あははははは」
男が笑うのでホッとした気分で声を出して笑った。
 レンジの上のやかんがガタガタと音をたて始めたので、男はレンジの火をとめた。
「あんたさっき、酒屋でカップラーメン買っとったやろ? 作るかと思て。」
「あ、はい。」
男にそういわれて、広間においたかばんの横のビニール袋を取りにいった。戻ると、袋から取り出してびりびりと包みを破り、ふたを開けると男はそこに湯を注いだ。広間の時計に目をやると、男が、
「おっちゃんもお茶よばれてええかいの。」
と声をかけるので慌てて、
「あ、はい。どうぞ。」
と返すと、男はキッチンの壁際にしつらえた水屋から、割り箸にパックのお茶と湯飲みを二つずつ取り出した。それですばやくお茶を入れると、「ほなら台を出そうかいの。地べたにおいて食べるのも味気ないけん。」と言って広間の方へと行き、端に立てかけてあった折りたたみ式の長机を出した。男は力仕事をする漁師らしく力強くさっさと机の脚を広げると、敷かれた布団を避けて広間の中央にしつらえた。
 彼女はそれを見ながら、キッチンの隅にあるお盆が目に入って、男が持ってきたおにぎりや太刀魚、カップラーメンと入れたてのお茶を載せると、しつらえられた長机へと持っていき、机の上に順番に並べた。
 どうもまだ目が冷め切っていないのか、動きが自分でも緩慢だと思った。
 男は机の向かいにすわって置かれた湯のみに律儀に「ありがとう」をいい、手に取ると、「クロカミやけんどな」と突然話し始めた。それから気がついたように「あ、適当なところで食べはじめてよ。のびたらうもうないで。」と声をかけた。「はい」と答えて広間の時計を見ると、もう開けてもいい時分だった。
 彼女がふたを開けて食べ始めたのを見ると、男はゆっくりと話しはじめた。
「クロカミやけんどな、ほうよ、ものを書く人やったら興味あるかと思うてしゃべるんやけんどな、その港の」と言って男は港に向うような格好をしてある方角をさした。「沖に向って左じゃ。向こうの方にな、クロカミというところがあるんよ。山の陰になって、港からはよう見えへんけんどな。それがな、昔昔のお話です。そのクロカミというところを通るとな、よう船が遭難して帰ってこんようになると言われとったところよ。なんでやと思う?」
 突然話をふられてのどをつまらせそうになった。
「さあ…」
「それや!」
言って男は手を叩き、指をさした。
「それはきいてびっくりたまげたな。そこにはな、な、なんと、源平の戦いで平家のお姫さんが流されてきとったんよ。でな、そのお姫さんはな、岩の上に住み着いてて、ながあい黒髪で、めらめら火をたいていつもおったんやて。その姿が沖の遠くの方から見えるんやけど、近づいたら村のもんを襲って取り殺し、船を沈めてしまうんよ。」
「え、そ、それはたいへん…。どうやって取り殺すんですか?」
「さあ、どうやってかなあ、術か呪いか、とにかく近づいたら村の人間は生きては帰ってこれん。村人はその化け物みたいになった姫さん、長い黒髪を揺らして笑いながら立ってるから黒髪と呼ばれとったんやけどな、それを退治しようとでかけたもんもあったけんど、弓で射ても刀で切りつけてもびくともせん。」
「はあ」
「それで、困った村人が、あれはもう人間ではない、ちょうどその上の山に修験者が修行に来とるけん、退治してもらおういう話になったんよ。」
「退治できたんですか?」
「ほうよ。退治できたんよ。どうやって退治したと思う?」
彼女は食べる手を止めてしばらく考えてみたが、思いつかず、うーんと目を閉じると、
「修験者はな、退治しようとしてもなかなか退治できなんだ。術も呪文もきかん。ところがな、あることに気がついたんよ。さっき、黒髪の横で火をたいとったと言うたやろ? あの火ぃはどうやって燃えとるんじゃと思うてな、そうじゃ、と、火ぃめがけて呪文をとなえて弓を射たんよ。」
「死んだんですか?」
「そしたら黒髪はぎぃやああああ―――と声を上げて死んでもたんよ。つまりな、その火ぃが黒髪を生かしておったんやね。」
男はそう話し終えると、目の前の茶を一服飲んだ。突然土地の伝説をきかされて、しばらくその場面を頭に描いていた彼女は、海岸沿いの岩の上で長い髪を揺らして火をたき、怪しげに笑いながらに立っている女房装束の女の姿を思い描いた。その想像の中の女にみとれている彼女を横目に、男は続けた。
「たぶんその流された場所やったら、食料もないしすぐに死んでもたんやろ。島流しにされた怨念だけが残って、怨霊になってそこで村人を襲っとったんやろな。村人は助けもせんと見殺しにしたんやろしな。冷めるで。」
 男の最後の冷めるで、で、ふと我に返った。口をつけていたカップヌードルは半分に減っている。温かさが体の中に流れこんで心地よさがまだ咽喉の奥に残っていた。「おにぎりと太刀魚も食べてよ」と男が付け足すので、皿のラップをはがしておにぎりに手を伸ばした。
「それからその黒髪はどうなったんですか?」
「さあ、どうなったかなあ。なにせ伝説やからなあ、続きがないんよ。」
彼女がまた返事をせずに頭の中で自分の思い描いた情景を繰り返していると、男が続けて、
「実際あの辺りはよう船が遭難したらしいわ。岩場が多いさかいな。」
と言い、それからまた茶をすすった。男は姿勢を改めると、
「ほならおっさんはこれで家に帰るわ。明日の朝また来るけん。ほやな、朝の七時半頃にまた来ますわ。戸締りをようして寝てよ。」
そう言って立ち上がった。
 その姿に彼女がうたれたように立ち上がり、台所横の入り口へと歩いていく男の後を追って、「すいません、何から何までお世話かけまして」と言葉を続けたが、男はドアの前でふと立ち止まり振り返って、
「あんたほんまは、死にに来たんと違うわなあ。」
と首をちょっとかしげた感じで突然問うた。
 突然の言葉に心臓がきゅっと締まった。瞬きを何度か繰り返すと、改まって男の顔を見て、
「いえ、違います。あの、よく、あるんですか、身投げとか。」
「いやあ、全然ないよ。嵐の日はあんたみたいにたまあに波にみとれてふらふらと堤防に歩いていくけしからん奴はおるけどな、あそこまで気ぃつかんと歩いていった人も珍しいと思て。」
彼女は、昼間堤防を歩いていたときの視界を思い浮かべていた。それは、今の台所の景色と比べたら、比べ物にならないくらい、重くて暗い景色だった。
「すいません、写真の場所を探してたので…それで歩いて沖を見てるうちに、あんまり沖がきれいで、見とれて、気がついたらあんなふうになってしまって…」
鼻の下を押さえながらうつむきかげんで答えた。すると、
「ふん、黒髪が呼んどったんじゃろか?」
男の言葉にぎょっとした。取り繕う間もなく、
「どや、おっちゃん詩人やろ」
にっと笑った。
 彼女が作りそこないの笑いを浮かべると、男は「写真の場所は明日改めて教えたげるわ。」と付け足した。
 男が出て行った。
 窓越しに何度も頭を下げると、男は暗い中から手を振って返した。男の姿を目で追いながら、広間にしつらえた長机まで歩いていき、食べかけのカップラーメンを手にとった。ずいぶん冷えたふうだった。
 カップを両手で包んだ。
 カップを覗き込みながら、ちょっと冷えちゃったなあと思い、のぞいた勢いでカップのふちをぎゅっと歯でかみ締めた。なぜか、ぼろぼろと涙がこぼれてくる。腹の中は中途半端に食料が入ったという感じだった。
 涙は次々とあふれてとまらなかった。
 何が悲しいのかさえわからなかった。
 
 翌日、例の漁師に公民館の使用料を支払い、鍵を返して、写真の撮影場所だという展望台へと向った。結構歩くから車で送ってくれるというのを固く辞した。歩けば十分から十五分だという。雨はやんでいたが曇り空で、パラリときそうな雰囲気だった。
 港の横から近道はあるが、雨の後で足元が危ないのと、わかりにくいのとで、アスファルトの車道を行くことを勧められた。バスの通り道でバス停があるからちょうどいいだろうということだった。バスの時刻をある程度みはからって出発したが、残された時間は一時間となかった。
 車道はだらだらと続く上りの坂道で、カーブを三回ほど曲がったあたりで「しまった、送ってもらうのだった」と思ったが、道の脇にずっと植えられた桜が、上でアーチを作って、それが雨水に輝いて美しかったので、こんなのを見ながら歩くのもいいかと思いながら歩いた。
 しばらく行くと突然脇の木が途切れて視界が開け、道端に一つ目のバス停が見えた。近寄ってバス標識に書かれた地名を目で追い、下をのぞくと、階段があって昨日行った港へと続いているらしかった。階段周辺には民家があり、港のある入り江全体が眼下に見渡せた。
 うす曇の中に海からゆるい風が吹いている。その風で、首筋にゆるりと汗をかいていることがわかった。
 港の向こうに山とも見える稜線が、突然海へと落ちている部分がある。あの山影辺りが、昨日話をきいた「クロカミ」だろうかと眺めた。
 じっとみつめている時間はないかと、その景色をみつめながら歩き始めた。
 道は再び、脇の木に覆われる。
 湿度が高いせいか、寒いわけでもないのに吐く息が少し白く見えた。時計を見ると、もう十分も歩いたころなのにと思う。思ううちに、道を覆う木が途切れた。途切れて、道幅を広くとったカーブが現れた。カーブの際にまたバス停がある。着いたと思って近づくと、バス停の横に茂みがあって、細い獣道のような通路があり、奥の方に白くて四角い3階建ての建物があった。これが展望台かと近づくと建物の入り口からすぐ階段になっていた。上がっていくと、それは階段ばかりでできた建物だった。上の、展望する場所へとただ、建物の中を階段がめぐらされている。階段を三階分めぐって、てっぺんに着くと、何もなかった。望遠鏡を置くつもりだったのか、その基礎工事部分だけ残して、後は平らかな屋上があるばかりだった。
 視界一面に、グレイに影を落す、しかし昨日より幾分明るい太平洋が開けた。
 背後には濃緑の山、そして、遠く右手には一枚目の写真に残されたのと同じ景色――彼女は、カバンの中から写真の入った紙袋を取り出した。手が意外にもかじかんでいるのがわかった。さっさっと手をこすりあわせてから、袋から写真を取り出し、カバンを望遠鏡を設置する基礎工事部分らしきところにおいて、景色に向って写真を広げた。
 そのままだった。
 景色は、――写真は、見せている色合いは微妙に違うものの、形はほぼそのままだった。背後の山から下りた稜線が一定の高さを保ったまま突然、海へ落ちている。波打ち際は稜線で森をかたどった木がそぎ落とされ、こげ茶色の地肌をむきだした岸壁が見えた。
 荒々しいまでの景色だった。
 その視界を少し山際へ移していくと、さびれた少し大きめの建物があった。今はもう閉鎖されている、青少年休暇村の施設だろう。施設はどうやらそこから海へと向ってキャンプ場、そしてプールが設置されているらしい。
 彼女は写真をめくった。
 目の前の海を撮ったもの、そして、クロカミの方角をとったもの。
 この展望台は、港を挟み込んだ二股の稜線の、片側なのだとわかった。港からはその角度でこの展望台が見えなかったのだ。
 写真は、この展望台を基点として、山をも映し一巡している。
 彼女は背後の山を見上げながら、写真の束を口元にあてた。標高はそれほどではないはずだが、海からゆるやかにせりあがっているために、たいへん大きく見えた。
 違うのだ。
 この見渡すかぎり、見渡せる限りの景色の中で、おそらく、存在する人間は、今、彼女しかいない、だから余計、大きく見えるのだ。
 彼女はきゅっと胸が痛むのを感じ、それから目を閉じた。
 一枚目の写真にある、海に向って右手の岸壁に目をやり、一面にひろがる太平洋に視界を移した。
 ぼんやり、と、沖をみつめた。ところどころ、波頭が白く見える。今日の海は荒れているのだろうか、おだやかなのだろうか。
 さあっと展望台の周囲の木々を揺らして、海風が吹き上げた。潮の香を含んだ、べとつく風だ。耳を澄ますと、波音がどう、どう、と音を立てているのがわかった。
 だから?
 だから何なのだ。
 のこされた写真をたどった。でも、何もないではないか。
 自分は一体、何のために、ここまで苦労をして一体何のために、ここに来たのだ。のこされた、ということを確認するために、ここにきたのか。
 一体、何のために? ――どうして、なぜ、ここに?
 風が葉を揺らしてゆるりと吹いている。それが、髪の毛を顔にまとわりつかせてうるさい。払いのけながら、とどまることをしらぬ空虚が胸の中を押し上げて、開いた口がわななき、ぼろぼろと涙がこぼれてきた。
 その涙さえもうるさい。
 何もない。何もない。もう、何もない、何も―――
 眼下には、茫漠たる海が広がるばかりである。
 誰もいない。何も、のこされていない。
「あなたの――」海風にさらされながら、彼女はあえいだ。
「あなたの世界の秘密を私に――」
 そのとき、遠く、左手の目の際、「クロカミ」の辺りに、光が見えた。
 ぎょっとして左手を向き、「クロカミ」の辺りをじっとみつめたが、それは見間違えだったのか、何も見えない。
 何もない。
 彼女は大きく口を開け、苦しさにあえいだ。胸が大きく脈打っている。そして、「クロカミ」の辺りを凝視し続けた。しかし景色は何も語らず、押し黙ったままである。
 わななく手で写真の束を袋に収め、かばんにしまい込んだ。
 急いで階段をたどって、展望台を下り始めた。景色から海が消えても、展望台の階段の中には、まだ、どう、どう、と波の音が響いている。海風にさらされた体が、どこかまだ硬直していた。流した涙に潮がまとわりついて、せっかく化粧して出た顔も、汚れているだろう。
 情けない自分の顔を思って、また、ぼろぼろと涙がこぼれ、階段の脇の壁にもたれかかってぶるぶると震えた。
「黒髪は、女の情念の色であります。ぬばたまの夜の色を吸い込み光る」
 弓で射て、消せる火ならば、たやすい。


(2003.5.11)

 

※ この物語に登場する「黒髪伝説」は、徳島県海部郡美波町伊座利に実在する伝説です。子供のころ、この作品に登場する漁師のモデルである叔父に、きいたそのままを使用しています。