咲花倉庫少女マンガ名作選特集・吉野朔実

担当者:咲花圭良  作成日:2000/6/3

作   品

HAPPY AGE

コミックス

ぶ〜けコミックス(集英社・全2巻)

初   版

前編1985/8/20 後編9/18

初   出

『ぶ〜け』昭和596月号〜60年6月号

登場人物:オーガスタス・ピックフォード、カルラ、アレックス、サー(ビクター・ロビンソン)、B・B・フォレスト、ヘレン、ジャン・カルロ、他

あらすじ:Part1 「Cabret N.Y.」

 1926年ニューヨーク、二流通信社ワールドニューズピクチャーズのカメラマン、オーガスタス・ピクフォードは、マフィアのボス、ジャン・カルロが撃たれ病院に入院し、その写真を撮るために病院に潜入した。唯一ジャン・カルロの病室に入り写真を撮ることに成功したのだが、ジャン・カルロの「遺言」を頼まれ、目の前で死なれてしまう。
 ジャン・カルロがオーガスタスに残した遺言とは、カルラという女に花を届けて欲しいということだった。(C)咲花圭良
 オーガスタスは証拠写真でジャン・カルロの死をすっぱぬいた後、カルラに花を届ける。が、カルラは受けとらず、オーガスタスを追い返してしまった。ところが、その後、カルラにカルロからの遣いという連中が迎えにやってくる。不審に思ったカルラは見繕いと偽って密かに抜けだし、オーガスタスのところへと逃げ込むのだが…。

 ストーリーは上記のPart1 「Cabret N.Y.」、そして火事現場で思わず撮影してしまった美しい青年と、同僚サーの紹介でアルバイトに入ったダンスホールで再会、のちニューヨーク市長に立候補する予定の州上院議員B.B.フォレストと関係を持っていることや連続放火との関わりを描くPart2 「10Cent Dance」、そしてB.B.フォレストが世評をかわすために婚約をしたという一連のストーリーPart3 「Diamond Lady」から構成されている。

コメント:おそらく吉野作品の中では初期に分類され、コンパクトにまとまった出来のいい作品の割には、「少年は荒野をめざす」の前に位置付けられているために、比較的目立たない地位に追いやられているが、吉野朔実という人が、ただの少女まんが家ではないと注目された最初の作品が、この「HAPPY AGE」であろうと推測する。
 「HAPPY AGE」という階梯があったからこそ、「少年は荒野をめざす」も比較的早い時期から注目されたのであろうと思う。 

 1920年代のニューヨークといえば、大恐慌の前の「幸福な時代」だった。その幸福な時代を吉野は、WNPのカメラマン・オーガスタス・ピックフォードに焦点をあてて描いているわけだが、殺しても死にそうにないほどたくましい、マフィアの情夫カルラは狙われた命を、死を夢見る亡命貴族アレックスは亡くしてしまいたい自分を、おそろしいほどお人よしなオーガスタスに事実上助けられ生き長らえる。そんなオーガスタス自身、なかなか仕事をさせてもらえない一流通信社をやめて、すぐに仕事のできる二流通信社に移り、また、オーガスタスのネガを盗んでもスクープを出した、ダンスホールの同僚ヘレンもまた、女性であるが故に記者としてなかなか雇い入れてもらえないという状況におかれていた。
 救い救われ、とても中途半端な寄せ集めの、しかしいつ壊れるともしれない危うい、幸福なアメリカの時代に生きていたという物語。(C)少女マンガ名作選
 初期ではなく、中盤以降の吉野なら、ここで彼ら一人一人の抱えた問題性に、もっと踏み込んで描くところであるが、あくまでもこの作品ではスマートに描き、まるで――というか、吉野自体がそのつもりだったのだろう、アメリカ映画をマンガで読むような軽快さとビジュアルで迫っている。もちろん一人一人のキャラクター設定は吉野ならではである。少ないページ数、わずかな言葉でここまで説明しきれているのもさすが、後の「いたいけな瞳」シリーズを描く基盤は、もうここに十分すぎるほどあったわけだ。
 しかしここはやはり、吉野がそうみせているように、「1920年代を舞台にした、アメリカ映画をマンガで読むノリ」で、楽しむのが相当だろう。そんなマフィアも酒もダンスも殺人もドロドロとせずそんなお洒落なノリで描かれているのだ。

 楽しんでください。

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