少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良  作成日:1999/12/18

作 品

東京のカサノバ

作 者

くらもちふさこ

コミックス

マーガレットコミックス(集英社・全二巻)、「くらもちふさこ選集・2」(集英社)

初 版

―――

初 出

『別冊マーガレット』1983年6月号〜1984年5月号

登場人物:水上多美子、水上暁(次男)、水上喬(長男)、水上美沙子(母)、水上家のおばあちゃん、羽生かおり、柚木紫、川端玲子、乙姫、生駒朱里、他

あらすじ:売れっ子女優羽生かおり(16)は、映画の撮影途中に倒れた。実はそれは、妊娠していたからだったのだが、誰もそのことに気付かなかった。かおりは産み落としたすぐ後に、何もなかったように、仕事に戻ってしまう。生まれた子供は、責任を取らされて解雇されたマネージャー、水上美沙子に一任され、後、話はその19年後から始まることになる。
 水上家の末っ子、高校生の多美子は、次男で、プロのフォトグラファーを目指す暁にべったりの、ブラコンだった。多美子は兄の部屋の布団に入り込んで一緒に寝起きする、また、暁も、多美子に頼まれればお迎えにでかけるようなかわいがりぶりだったが、ある日、二人が一緒に寝ていることを知った長男で売れないバンドのギタリスト、喬が、祖母に「小さい頃暁がもらわれてきた記憶がある」というのを多美子が立ち聞きしたことをきっかけに、多美子の中で「暁」が変わり始める。
 そんな折、暁は一枚の写真の評判を機に、バイトで入っていた雑誌編集で、写真のコーナーを持たせてもらうことになった。ふとしたことから、多美子と友人になった紫は、暁とも知り合い、そのコーナーのモデルをつとめることになる。暁に近づく女たちに激しく嫉妬する多美子だったが、紫にだけは暁に近づくことをなぜか許せた。その彼女を撮影しているスタジオに、ある日、紫の父が経営している劇団出身だという人気女優「羽生かおり」が訪ねてくる。(C)咲花圭良
 羽生かおりを撮ることを目標にして仕事をしていたようなものだった暁にとって、それは夢のような出来事だったが、さらにそれだけでなく、羽生かおりはデビュー20周年記念パーティーの招待状をくれたのだった。
 紫に「羽生かおりには16の時に産んだ隠し子がいる」ときかされ、それが暁のことだと気付いていた多美子は、二人の再会に激しく気をもむのだが…。

コメント:小さな小さな家庭の中に、大きな大きな運命がある。それに関わってしまった彼ら自身は、たいして大事という自覚もないままに、一人の人間として悩み傷つき、そして生活している。

 くらもちふさこという人の作品をあまり固く語ってしまうと、作品自体の持つ雰囲気をぶっ壊してしまいそうなので、止めた方がいいと思う。おそらく書いている彼女自身も、ただの一家庭に見まわれている、もしくは一人の青年や一人の女の子に見舞ったとんでもない運命、だなんて自覚もなく、ただただ、作品を動かしているような気がするのだ。そこにこれといったテーマもなく、主題もプライドさえないような気がする。
 何があるのか。愛がある。そこには女の子達に欠けてはならない、等身大の恋愛がある。(C)少女マンガ名作選
 ただそれだけなのだ。でも、それだけでいいと思う。なぜなら、それがくらもちふさこという少女マンガ家なのだから。

 かえって、事件らしい事件のない話を書くということの方が時としてとても難しいのだ。だって、事件にロマンがあるのは当然だ。だから事件なのだから。それも、そういう事件を起す人たちの物語なのだから、人物だって魅力があって当然だ。でも、くらもちは違う。主人公ターコは違う。どこにでもいる女の子たちに、ロマンをからませて、そして当たり前のように生きさせてしまう。恋を、させてしまう。 

 今みると、故多田かおるの絵にとても似ているが、多田かおるの方が影響されたというのが正しいのだろう。少女マンガは、色んなジャンルに大別できると思うが、「愛や恋しか書かない」のを仮に「正当派」と呼ぶなら、この人もその中に入れていいと思う。何度も何度も繰り返される、つまりは恋愛主題の物語を、飽きさせないこの人の作風は、読む側が主人公たちの「高校生」という時を追い越しても、等身大ゆえか、あるいは淡白なゆえか、今もなお、新鮮だ。

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