少女マンガ名作選作品リスト

担当者:咲花圭良 作成日:2001/05/04

作 品

クリスタル☆ドラゴン

作 者

あしべゆうほ

コミックス

ボニータコミックス(秋田書店・1〜17巻、続刊中)

初 版

1巻 1982/3/10 2巻5/30 3巻12/5 4巻1983/5/30 5巻7/5 6巻1984/12/1
7巻1985/5/5 8巻10/1 9巻 1986/4/1 10巻11/10 11巻1987/7/1
12巻1989/9/5 13巻1990/8/5 14巻1992/8/25 15巻1997/12/25
16巻1998/11/15 17巻2000/3/10(続刊中)

初 出

1981年「ボニータ」で連載開始、「ミステリーボニータ」で連載中

登場人物:アリアンロッド、ヘンルーダ、ボリ・エリクソン、レギオン、風の精の王パラルダ
邪眼のバラー(深淵の谷の一族長)、グリフィス(バラー部下)、エラータ(女魔法使い)
ミアーハ(沈黙の一族・長)、ラズモア、狼、ウーナ姫(バラー妃)、イラン、キア
パブリウス・アントニウス、ソリル・ニャールセン、ハルバラ(女魔法使い)、ギルス、ヨールン、スカルメール(楯の乙女)たち
巫女姫セクァヌ、エフィデル、サール、アラヌス、サビヌス、皇帝ネロ、ペトロニウス他

あらすじ:エリンの島は、七人の王のもと、たくさんの一族(クラーナ)があった。その中の一つ、グリアナン・クラーナ<緑の原の一族>のハロルドの娘、アリアンロッドは、金髪に青い目のケルト人の中で、なぜか髪が黒いために、「妖精の取りかえっ子」といわれていた。
 ある日彼女が、海にいると、銀の帷子をつけたレギオンと名乗る戦士が現れた。彼はアリアンロッドにサークルを与えると、真の名がまだつけられていない彼女に、海神立会いのもと、真の名を与えた。
 そこへ、旅から帰った一族のドルイド<魔法使い>ドリスコルが、父ハロルドと共にやってきた。アリアンロッドがもらったサークルを見たドリスコルは、それがドワーフ<小人>の細工であるといい、アリアンロッドをドルイド見習いとしてドリスコルに預けないかと、ハロルドにもちかける。妖精のとりかえっこと忌み嫌われるよりはと、いうことで、アリアンロッドは魔法使い見習として集落の外れにすむドリスコルの元で修行を積むことになった。

 やがて、アリアンロッドは美しく成長する。
 近頃、邪眼のバラー率いる、ドームニューガウン・クラーナ<深淵の谷の一族>が、周囲の一族に攻め入り、略奪を繰り返しているという噂がドリスコルの元で修行するアリアンの耳にまで入った。そのことについて、族長の元で話合いがあると、ドリスコルは出かけていったが、その夜、グリアナン・クラーナは、邪眼のバラーたちに攻め入られてしまう。
 わずかに残った一族の娘達が、ドームニューガウンに連れ去られたと、風の精の王に教えられたアリアンは、風の精たちの助けを借り、黒髪を利用してローマ人の娘に化け、ドームニューガウンに潜入する。(C)咲花圭良
 そこで、アリアンは邪眼のバラーに気に入られ、囲われることになった。邪眼のバラーはアリアンに、一族の長になる変わりに魔に力を借りたのだと語る。右目がその代償として片目になったのだとも。そして、囲われの身となって部屋を与えられると、部屋つきの召使としてやってきた幼馴染でグリアナン・クラーナの族長の娘、ヘンルーダと再会。いよいよバラーに呼ばれてアリアンはバラーの元に召されることになった。しかし、そこにいたのは片目のバラーではなく、まがまがしいほどの両眼のバラーだった。アリアンはその凶々しい眼を見ることに堪えられず、心眼を閉ざしてしまう。そのバラーとの格闘の中でアリアンはバラーの胸を剣で貫く。しかし、その胸から流れていたのは黒い血だった。
 痛手を受けたバラーの、どさくさに紛れて、アリアンは火の王の手助けでドームニューガウンを脱出、風の精の王に導かれ、聖なる島に到着した。
 彼女はそこで、魔法使いたちが修行をし、杖を授かる「学びの園」に行きつくが、自分の杖が存在せず、アリアン自身が伝説の「杖なきドルイド」だと教えられる。杖なきドルイドはクリスタル・ドラゴンの住む水晶宮への道をたどると教えられた。
 ひとまず、ドームニューガウンへ、残されたヘンルーダを助けるために向かったアリアンだが、行きつく前にヘンルーダと、一時アリアンつきの奴隷だった少年ボリに会うことができた。ところが、眼が見えなくなっているアリアンは、ヘンルーダの額に黒い染みがあることを感じた。それは、邪眼のバラーがヘンルーダに真の名を聞き出したとき、額に自分の剣についた黒い血をしたたらせたところだった。

コメント:「悪魔の花嫁」の作者で知られたあしべゆうほが、オリジナルで書く長編の本格ファンタジーである。1981年からから20年にあまる連載になるが、1987年舞台がローマに移転しはじめた頃から急激にトーンダウンし、現在17巻を数えてスローペースで連載が続けられている。
 作者が死ぬまでに書き終えてほしいと懇願されている作品の一つと言ってもよく、秋田書店であり、1年、ないし2年に一度という超スローペースでのコミックス刊行にも関わらず、また、本屋でも全巻揃えておいていることが少ないながら(もちろん文庫化されていない)未だ読者がついて、しかも配本されれば売れ続けている数少ない作品の一つでもある。(C)少女マンガ名作選
 アニメ化されたわけでもなければ、雑誌で特集を組まれても、特に名作に数えられるわけでもない。しかし、意外と「読んだ?」ときくと、読まれているのも、この作品の特徴である。

 ファンタジー要素はもちろんであるが、神話や歴史に題材をとり、民俗学的事項(首を切るのは再生を防ぐためとか、真の名の存在とか、葬送の儀式だとか)もきちんと踏まえられているあたり、作者の生半可ではない調査量にひたすら感嘆するばかりであり、また、登場人物も多く、筋も複雑に練られているわりには、すんなりと夢中にして読ませてしまうから、あしべの持つ力量の底力を感じさせる。が、あまりに話が壮大であるためか、あるいは、作者の個人的事情が関連しているためか、なかなか終わりを見ないのが、まだるっこしいというか残念でならない。なかなか終わらないために名作の一つにもいれられないという実情を考えても、ここはあしべ氏にふんばってもらって、この一大叙事詩を一日も早くクライマックスへと導いてほしいものである。

 この作品の特徴としては、例にもれず、美男子がいっぱい。その中でアリアンはなかなか大もてであるが、恋は全くに近いほどしない。いい感じ、と思っていると、いつもその男との別れが待っている。運命の男かもしれない邪眼のバラーは(グリフィスとくっついてほしい人もあるだろうが…)美少年が好きだし、妻まで迎えてしまう。妻は他の男の子を身ごもり、その子はバラーの子として育てられる。要するに上手くいかない恋があちこちで空回りしていて、よく考えたらドロドロとした人間ドラマなのだ。そのかわりにヘンルーダが恋の部分をかなり引きうけているという感じである。が、邪眼のバラーの「黒い血」を額にたらされた彼女が、その黒い血で魔の拠りましにされてしまっているために、恋も上手くいかず、幸せもなかなかつかめず、アリアンの旅そのものも上手くいかなくしてしまっている。
 この恋や、魔の拠り所となってしまっているヘンルーダと、杖を求める杖なきドルイダス・アリアンとのいざこざを中心にしながら、旅の行程が描かれていると読めば、この話はある程度わかりやすいかもしれない。こんなドロドロした複雑な人間ドラマを、ファンタジーや神話の世界に放り込んでいるのだから、書くほうもなかなか大変だろうが、読む方もなかなかたいへんで、ちょっとあらすじを話して見ろといわれると、複雑で言葉につまるむきも多いだろう。が、読んでいるうちは、そんな複雑さを感じさせられず、ぐいぐいと引き込まれる作品であることは、あるのである。

 本格ファンタジーの例に漏れず、やはりRPGの要素がかなり高いというのも確かである。アリアン自身が何かを身につけ、パワーアップしないと次に進めないし、右が左かで大きく運命が変わるような印象を受ける場面が幾つかある。この作品を面白くさせているもう一つの要因が、この「パワーアップ」、要するに、次のステージにどんどん上がっていて、最後の「杖なきドルイダス」という上がりに向かうというところにも、あると思う。
 超人的不思議の世界であり、独特の雰囲気が描きこまれている。絵も美しい。そして神話、歴史上の人物と、場合によっては欲張りすぎとも言えるたくさんの「面白い要素」がてんこもり。そのどれを楽しむでもよいが、おそらく全部楽しんで何度も堪能することだろう。

 クライマックスに入っても、完結まで長そうである。おそらく、結末はできていることだろうから、是非完結してほしいものである。そして、名作の一つとしてカウントされる日のくることを願うものである。(2001年5月4日)

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